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福岡高等裁判所 昭和43年(ラ)154号 決定 1969年4月30日

抗告人 宮原利一(仮名) 外八名

相手方 宮本利子(仮名) 外三名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

抗告人らの抗告の趣旨理由は別紙(一)、(二)のとおりである。

(一)  別紙(一)の抗告理由について

原審判の摘示する諸事情は記録によつてこれを肯定するに足り、これら諸事情に徴し、原審判の遺産分割の方法ないし数額はいずれも相当と認められる。

抗告人ら主張のように、被相続人宮原亀一の遺産の中に同人が先祖から承継した財産が一部存在するとか、原審の申立人宮原フミが亀一からその生前若干の不動産の贈与を受け、また亀一の死後フミに亀一が買収を受けた農地に関し報償金六万円が交付された、というような事情があるとしても、かかる事情はそれだけではいまだ右結論を左右せしめるに足りない。

抗告人らは、亀一の遺産のうち相当の部分を原審判の認定した以外に、フミとその同居者である酒井幸夫の一家が生活費等にあてるためほしいままに処分してこれを失わしめたかのように主張するが、かかる事実を認むべき資料はない。

抗告人らは、原審判にはフミが取得した遺産の賃貸料の計算につき脱漏があると主張するけれども、その指摘にかかる分をフミが受領したと認むべき資料はなく、却つて原審における被審人貝塚二郎の陳述によるとフミがこれを受領取得した事実のないことを肯定するに足りる。

抗告人らは、原審判には遺産に属する宅地約五〇坪が分割の対象に加えられていないとも主張するが、その指摘の約五〇坪というのは、記録によると、土地区画整理組合の保留地配分計画において亀一の相続人に対し配分される予定になつているのみで現実に配分されたものでないことが明らかであるから、これを分割の対象に加えることはできない。

抗告人らはまた、原審において自由な陳述ないし資料提出の機会が与えられなかつたとも主張するが、原審が抗告人らに対しその機会を十分に与えていることは記録上明らかである。

(二)  別紙(二)の抗告理由について

(1)  記録によると、別紙(二)の末尾別紙一、二、三の土地はいずれも現在官公署の敷地の一部となつていて事実上その取戻は不可能にひとしく、近い将来その公用が廃止される見込はなく従つて一般取引の目的となり得ないものであること、およびその買収の事情は原審判の認定したとおりであること、が認められるから、その分割時の価格を特に一般の取引価格に求めることなく、当時適正なものであつた買収対価に対価供託後の供託利子を加算した金額をもつてこれにあたるとした原審判の判断はこれを支持するに足りる。

また同四の土地も、記録によると小作地であつたことが窺われるのであつて、差戻後の原審鑑定人鹿田八郎の鑑定結果によると、荒尾市大字○○○○および大字○○地区における畑の自作収益価格は反当二二万九、七四一円小作地としての価格はその七割にあたる反当一六万〇、八一九円であることが認められるから、その地積四畝一三歩について分割時の価格を算出すれば約七万一、三〇〇円となることが明らかで、これをフミの売却代金五万三、〇〇〇円にその受領の日から年五分の法定利息を加算した八万九、二一六円にあたるものとし、同価格によりフミの取得分に算入すべきものとした原審判の判断には、抗告人らの不利益に帰する過小評価のないことが明らかである。

(2)  イ 記録によると、フミは亀一死亡後自身の弟酒井幸一一家と同居しその娘利子を養子とし、幸一に遺産の管理を一任し、遺産のうち他に賃貸中の土地建物の賃料や他に処分した土地代金等を自身の生活費にあてるほか、田畑の一部をその自作地として事実上幸一に耕作させ同人の扶養を受けて生活して来たことが認められるけれども、原審判が認定した以外にフミが亀一の遺産を処分したものと認むべき資料はない。原審判は、フミが取得した処分代金および賃料額を証拠に基いて算定し、フミの納付にかかる遺産に対する公租公課と相殺計算した上、これをフミの遺産分割による取得分に算入すべきものとしているのであつて、右判断も是認するに足りる。なお、前記のような農地の自作は、他に小作させたり荒廃させたりしないという意味において農地としての価値を保存する行為にもあたるものであり、他の相続人中にも亀一の遺産を自作の形で耕作しているものがあること、右自作による利益がいくばくであるか確定するに足りる明確な証拠がないこと、を考慮に入れると、右自作の利益の如きは遺産の分割にあたり特に斟酌する必要があるとは認められない。

ロ 原審判が農地をその収益価格によつて評価したのはさきの抗告審の判断に覊束される結果やむを得ないところであり、抗告人らが追加抗告理由(三)のロとして指摘する農地三筆について、その主張のとおり、収益価格による評価が差戻前の原審における鑑定人鹿田八郎の鑑定結果による一般取引価格にくらべてかなり低いことは否定しがたいけれども、かかる関係は、フミの取得とされた右三筆だけでなく、抗告人原田友三の取得と定められた原審判別紙第一A表4、5、の田、抗告人新井照子、宮原愛子の取得と定められた同表1、2、の田および11、12、の畑においても同様であるか更に著しく、従つて前記三筆の農地をフミの取得とすることをもつてフミにのみ手厚い偏頗の措置であるということはできない。

ハ フミの単独所有名義に登記された不動産数筆があるということも、前叙のとおり、それだけでは格別原審判の分割を不当とする事由とはなり得ない。

ニ 抗告人宮原利一ほか四名の取得とされた宅地二筆の評価一一〇万〇、三〇〇円は、差戻後の原審における鑑定人鹿田八郎の鑑定結果によると、借地権付の価格として更地価格の五割減に相当する評価で当然地上に建物の存在することを前提としたものであることが明らかである。そしてすでに現況・地目ともに宅地となつている土地が、宅地に転用される見込があるといつても転用許可を得るにはそれ相応の条件を必要とし換価その他の処分につき現実に諸種の制限を受ける農地とくらべ、取引上価値の高いものとせられることは当然であるばかりでなく、記録によると、同抗告人らは右宅地の分配を希望した結果これを取得すべきものとせられたことが明らかであるから、単に農地の評価と比較して前記宅地の評価ひいてその配分の結果を不当とすることはできないものというべきである。

(3)  なおフミが原審判の成立後死亡し、その姪にあたる養女宮原利子がその相続人となつたこと、同人が亡亀一とは血縁関係のないものであること、は記録上明らかであるが、かかる事情も原審判のした遺産の分割を不相当ならしめる事由とは認めがたい。

以上の次第で抗告人らの抗告は結局理由なきに帰する。

よつて本件抗告を棄却することとし、抗告費用は抗告人らに負担させることとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 亀川清 裁判官 蓑田速夫 裁判官 柴田和夫)

参考 原審 熊本家玉名支 昭四三・九・三審判

申立人 宮原フミ(仮名)

相手方 宮原利一(仮名) 外一名

主文

一、本籍熊本県○○市○○○○△△△番地被相続人宮原亀一(昭和二四年四月九日死亡)の遺産を次のとおり分割する。

(一) 申立人宮原フミ(相続分一四四分の九六)は

(1) 別紙第一A表中、1、2、4、5、11、12、13、の各筆を除く爾余の不動産(価格合計一三七万二、三五〇円相当)

(2) 別紙第一B表(一、二)の各不動産(価格合計三〇万九、〇五〇円相当)

(3) 別紙第一B表(一乃至八)の各不動産(価格合計七六万八、四二七円相当)

(4) 別紙第一C表中1、3、5、8の各筆を除く爾余の不動産(価格合計二一九万八、七一八円相当)

(5) 別紙第一D表(一乃至四)の不動産(価格合計二七万五、四五四円相当)

(6) 別紙第一G表の不動産(価格一〇万二、一〇〇円相当)

(7) 別紙第二の果実(収益)中金七七万四、二二二円

を取得し、

(イ) 相手方山村春雄に対し、金一六万九、七八二円

(ロ) 同山村晃に対し、金一六万九、七八二円

(ハ) 同宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソに対し、金二万七、七四七円

宛支払うこと。

(二) 相手方新井照子同宮原愛子(相続分両名で一四四分の六)は、共同して

(1) 別紙第一A表中1、2、11、12の不動産(価格合計九万一、七二七円相当・共有持分の割合1/2)

(2) 別紙第一C表中5の不動産(価格二六万円相当・共有持分の割合1/2)

を取得し、

(イ) 相手方宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソに対し、金三、八三三円

(ロ) 同大山喜作同山下タミに対し、金八、三三〇円

宛、連帯して支払うこと。

(三) 相手方宮原夏夫(相続分一四四分の四)は

(1) 別紙第一A表中4、5の不動産(価格合計二二万八、九七五円相当)

を取得し、

(イ) 相手方大山喜作同山下タミに対し、金二、五九九円

を支払うこと。

(四) 相手方大山喜作同山下タミ(相続分は両名で一四四分の一二)は、共同して、

(1) 別紙第一A表中13の不動産(価格八万〇、四〇九円相当・共有持分の割合1/2)

(2) 別紙第一C表中8の不動産(価格五八万七、七九〇円相当・共有持分の割合1/2)

を取得し、

(イ) 相手方新井照子同宮原愛子に対し、金八、三三〇円

(ロ) 同宮原夏夫に対し、金二、五九九円

宛、債権を取得すること。

(五) 相手方宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソ(相続分は五名で一四四分の二〇)は、共同して

(1) 別紙第一C表中1、3の不動産(価格合計一一〇万〇、三〇〇円相当・共有持分の割合1/5)

を取得し、

(イ) 申立人宮原フミに対し、金二万七、七四七円

(ロ) 相手方新井照子同宮原愛子に対し、金三、八三三円

宛、債権を取得すること。

(六) 相手方山村春雄(相続分一四四分の三)は

(1) 申立人宮原フミに対し、金一六万九、七八二円の債権

を取得すること。

(七) 相手方山村晃(相続分一四四分の三)は

(1) 申立人宮原フミに対し、金一六万九、七八二円の債権

を取得すること。

一、本件手続費用中、鑑定に要した費用金四万五、〇〇〇円は、これを一四四分し、そのうち九六を申立人宮原フミ、各六を相手方大山喜作同山下タミ、各四を宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソ同宮原夏夫、各三を同新井照子同宮原愛子同山村春雄同山村晃の、それぞれ負担とする。

理由

本件については、当裁判所が昭和三九年九月一一日なした審判に対し、抗告審たる福岡高等裁判所において、原審判を取消し当裁判所に差戻す旨の決定があつたので、さらに当事者並びに参考人に対する審問、鑑定、その他事実の調査等を施行し、その結果に基づいて次のように認定判断した。

第一、被相続人宮原亀一の相続人ならびにその相続分および生活の実情等について

被相続人宮原亀一の各相続人の身分関係等は別紙第四表掲記のとおりであるが、各人の親疎、生活の実情、遺産分割についての希望等はつぎのとおりである。

(一) 申立人宮原フミ、明治九年八月二〇日生、無職。

同人は被相続人亀一の妻で、若い頃夫婦でアメリカに渡り白人家庭の皿洗いや農園の農夫等として働き、右蓄財によつて帰国後農地・山林・宅地等を買い集め、農業や地代収入等で生活していたが、実子が無いため、被相続人死亡後実弟酒井幸夫の長女菊江(昭和一六年一月一九日生)を養子とし、同女と共に遺産である別紙第一G表(以下単にG表と略称する、他の各表についても同じ。)の家屋中の一部(木造瓦葺平家建一二、五坪)に居住し、右養子並びに右酒井幸夫の援助によつてA表中の1、2、4、5、11、12を除く爾余の農地、C表の宅地・山林・原野を事実上管理している。

その相続分は96/144で、現物分割を希望している。

(二) 相手方宮原利一、明治三一年四月八日生、司法書士。

同人は被相続人の長兄亡宮原三郎の長男で福岡市○○○○○町○○○○番地に居住している。

申立人の既往における事実上の遺産管理ならびにその処分について深い疑惑と強い不信の念をいだき、分割に当つては申立人の恣意を容れるようなことがなく、全相続人のため衡平に行なわれるべきである旨強調している。

その相続分は4/144で、同人自身の分についてはC表1の宅地の配分を希望し、もし相続分等の関係で、同人の単有分割が困難のときは実弟等(原田友三、宮原良二等)との共有分割でもよい旨の意見を表明している。

なお右原田友三同宮原良二を含む弟妹五名との間は極めて親密で、本件遺産分割についても右五名を指導し、助言を与え、一体的行動をとつている。

(三) 相手方永井ミツ、明治三三年一〇月六日生、寡婦。

同人は右亡三郎の長女で、夫正夫が昭和四一年五月一八日死亡後は、荒尾市内の長女昌子の稼ぎ先に寄寓し、本件遺産中A表の5掲記の農地を他の相続人川上イソ(実妹)同宮原夏夫(実弟)並びに申立外田代スエと共同で耕作しており、分割については現物取得を希望している。

その相続分は4/144である。

なお同宮原利一等兄弟並びに妹川上イソとの間は頗る親密で、本件分割についても利一の意見に従つて他の弟妹等と一体的行動をとつている。

(四) 相手方川上イソ、明治三五年一一月二五日生、主婦。

同人は右亡三郎の二女で、失対労務者をしている夫および孫(高校三年)と荒尾市内に同居し、本件遺産中A表の5掲記の農地を前記のように実姉永井ミツ等三名と共同耕作しており、現物分割を希望している。

その相続分は4/144である。

なお他の兄(姉)弟等との関係及び本件遺産分割に対する態度等は相手方永井ミツのそれと全く同じである。

(五) 相手方原田友三、明治三六年一二月二八日生、失対労務者。

同人は右亡三郎の二男で、現在長崎県島原市に妻及び四男と共に住み、自己の失対労務者としての収入および右四男の塗装工見習としての賃金で生活している。

現物取得を希望し、その相続分は4/144である。

なお他の兄(姉)弟等との関係および本件遺産分割に対する態度等は右川上イソのそれと全く同じである。

(六) 相手方宮原夏夫、明治三九年一二月三一日生、左官手伝。同人は右亡三郎の三男で、荒尾市内に、妻及び高校生の二男と同居し、左官手伝の傍ら、本件遺産である別表Aの4掲記の農地を単独で、また同表5掲記の農地を前記実姉永井ミツ等三名と共同で耕作し、右による収入と妻の病院炊事婦としての賃金とで生計を立てている。

現物取得を強く希望し、その相続分は4/144である。

なお他の兄(姉)弟等との関係および本件遺産分割に対する態度等は右原田友三のそれと全く同じである。

(七) 相手方宮原良二、明治四二年二月一五日生。商店事務員。

同人は右亡三郎の四男で、荒尾市内に妻と○○○職員の長男及び高校生の二男と同居し、自らは大牟田市内の商店に経理係事務員として勤めている。

その相続分は4/144で、現物取得を希望している。

なお他の兄姉等との関係および本件遺産分割に対する態度等は右宮原夏夫のそれと全く同じである。

(八) 相手方大山喜作、明治二三年二月二六日生、無職。

同人は被相続人の次兄亡宮原大介とその先妻(アサ)との間の長男で、現在荒尾市内に住み、高令のため全く無収入で同居の長男によつて扶養されている。

本件遺産分割の方法については特別の意見をもたない。

しかし他に弟妹がないため、異腹の妹である相手方山下タミに対し、一番親近感をもつている。

(九) 相手方山村春雄、昭和九年四月二日生、自衛隊員。

同人は右亡大介とその後妻(マキ)との間の長女山村ヤエの三男で、現在自衛隊健軍駐屯三一一部隊に勤務している。

遺産分割については、換価分割による現金取得を希望している。

その相続分は3/144である。

(一〇) 相手方山村晃、昭和一〇年一〇月三〇日生、国鉄職員。

同人は右ヤエの四男で国鉄に勤務し、熊本市内に妻と二人で暮らしている。

遺産分割については、みぎ実兄春雄同様換価分割による現金取得を希望している。

その相続分は3/144である。

(一一) 相手方新井照子、昭和一四年一一月一二日生、主婦。

同人は前記亡大介とその後妻(マキ)との間の長男亡宮原勇の長女で、現在会社員の夫と二人で大牟田市内で暮らしているが、荒尾市内に住む実母宮原トクが本件遺産中A表の1、2、11、12掲記の各農地を耕作しているので、遺産分割については同女に引続き右耕作を得させるため実妹の宮原愛子と共に強く右農地の配分を希望している。

その相続分は3/144である。

(一二) 相手方宮原愛子、昭和一七年四月一七日生、工員。

同人は右亡勇の二女で、現在荒尾市内に実母トクと同居し製網会社の工員として働いているが、前記のように同居の母が本件遺産の一部である農地を耕作しているので、遺産分割についてはみぎ母の耕作維持のため実姉の相手方古賀一代と共に現物分割を切望している。

その相続分は3/144である。

(一三) 相手方山下タミ、大正一一年一二月一〇日生、農業。

同人は前記亡大介とその後妻(マキ)の間の二女で、現在荒尾市内に、○○○勤務の夫および、姑、ならびに男女計四名の子女(うち長女だけが店員として勤めており、他は小、中、高校生)と同居し、自らは水田約三反、畑約一反を耕作し、右農業収入及び夫と長女の各賃金で生計を立てている。

遺産分割については現物分割を希望し、とくに現在宮原トクが耕作している本件遺産中のA表2の農地の取得を欲している。

その相続分は6/144である。

なお異腹ながら長兄に当り、かつ現在生存中の唯一の兄である相手方大山喜作に対し、一番肉親としての親近感をもつている。

第二、相続財産の範囲について

(一) 概要

昭和二四年四月九日被相続人宮原亀一の死亡によつて本件相続が開始した当時存在した財産は別紙第一各表(ただしE及びFの各表を除く。)掲記の不動産(農地、山林、原野、宅地、建物と若干の家財道具で、後者は金銭に評価して遺産に計上するほどの価値はなく、他に預金その他の債権も認められないところ、該不動産中現存するものはA表掲記の農地、同C表記載の農地以外の土地、同G表表示の建物(家屋)だけで、B表、B’表各掲記の元農地並びにD表記載の元非農地はすでに処分済み(売却または事実上売却)であり、E表掲記の元農地は換地によりなくなつている。

なおF表掲記の元農地は被相続人の生前である戦時中に国防道路(現産業道路)建設敷地として、国に買収(その正確な年月日、代金等は不詳)済みのもので、ただその登記手続が未了のため本件相続関始当時登記簿上はなお被相続人宮原亀一の名義で残つていたにすぎないものであるから、本件遺産には属しないものである。

(二) 相続開始後売却および換地によりなくなつた相続財産について

(イ) 売却による分

前記B表同B’表各掲記の農地及び同D表記載の非農地は相続開始後売却(相続人全員の同意のもとに売買されたもの、以下同じ。)もしくは事実上売却(相続人全員の同意が得られないまま行なわれた売買、以下同じ。)されたものであり、その売却先、売却価格、代金受領関係等は右各表の当該欄掲記のとおりである。

しかしてそのうち右B表の1および2は、いずれも相続人全員の承諾のもとに、前者は昭和三八年一二月二六日○○市役所横道路の敷地として代金二万七、七九〇円で、また後者は同四一年九月五日熊本地方法務局○○出張所庁舎新築用地として代金二六万六、〇〇〇円で、それぞれ○○市に売却された(尤も右承諾後相手方宮原利一同原田友三同宮原良二同宮原夏夫同永井ミツ同川上イソの六名が、他の相続財産との同時解決を主張して同人等の印鑑証明書の提出を拒否したため登記はできずに今日に至つた。)ものであるが、B’及びD表各掲記の土地の売却については、申立人は別として、相手方宮原利一同原田友三がB’表の6、7掲記の各農地、D表の1(宅地)、2(山林)、3(原野)、4(山林)記載の各土地の合計六筆について、事前にその承諾をした(ただし、前記B表の1、2と同じ理由によりその後同人等から印鑑証明書の提出は拒否された。)事実が認められる(なおこのほかB’表の1、2について相手方新井照子同宮原愛子の親権者宮原トクが法定代理人として一旦承諾の意思を表示したが、後になつてこれを撤回している事実が認められる。)だけであつて、右相手方等がみぎ以外の土地について、また爾余の各相手方等が前記B表1およ2びの土地以外の土地について、それらの売渡しに対し事前に同意し、もしくは事後において追認したと認めるに足る確証は存しない。

とくにB’表8の土地については申立人において同人が宮原亀一の唯一の相続人であると僣称(後記のように必らずしも悪意とは認められないが)して単独相続による単有の所有権移転登記をなし、ついでこれを自己の単有地として田中忠一に売却し、その旨の登記を経ておることが登記簿上明認できる。

その他の土地については登記が未了で、かつその申請関係書類も既に保存期限経過によつて廃棄済であるうえ、関係者の元○○市長竹内勝利、売買登記手続に当つた司法書士渋谷芳三等がいずれも死去しているので、右売渡しの経緯が審らかでないが、相手方宮原利一提出の証拠(司法書士渋谷芳三の用箋に代書された申立人を除く爾余の相続人各自の名義による同人等が特別受益により相続分はない旨の各証明書草稿)並びに、兄弟姉妹の代襲相続については応急措置法当時議論が岐れたところであり、新民法施行後開始した相続に関する限りは、みぎ代襲相続も認められるものであるという公権的解釈は、昭和二六年九月一八日付の民事甲第一八八一号による法務省民事局長回答によつて、はじめて確立したものである事実-これは当裁判所に顕著な事実である-等に徴すると、右渋谷司法書士は、当初被相続人宮原亀一の相続人は配偶者の申立人フミ以外にはないものと速断し買主側(○○市・県・建設省等)と売買契約締結の手続を執つたが、みぎ成約後矢張り相手方等(被相続人の兄弟の子等)にも共同相続権のあることに気付き、事後における弥縫策として、みぎ他の相続人等にはかつたうえ同人等は被相続人の生前に同人から各自の相続分を超えた財産の贈与を受けているので本件遺産相続については受くべき相続分はない旨のみぎ相手方等の証明書を得て前記土地に対し申立人単独売渡しの手続を合法化(有効化)しようと企図したが、ついに右同意を得られず果さなかつたものと推認される。

したがつて法律上は申立人および該土地中の一部の売却に同意した相手方中一部の者の持分以外の共同相続人の相続分の和相当の共有持分は依然該売却土地につき残存し遺産として現存しているということになる。

尤も申立人は一字も解さないうえ、右売買当時はすでに八〇歳に近い高齢であつたので、事実上右売買の衝には同人の実弟である酒井幸夫が当つており、かつ酒井は法律知識は全くないので新民法上被相続人の直系卑属がないときは、配偶者だけでなく、被相続人の兄弟姉妹ないしそれらの子孫等にも共同相続権があるものであるというようなことはもとより全く関知せず、相続人は配偶者たる申立人宮原フミ一人だけであるものと速断してB’表8の土地については司法書士松島豊に、その余の同表およびD表の各土地について司法書士渋谷芳三にその売買並びに登記手続一切を委任したものであること、B’表(ただし8の土地一筆を除く)及びD表の各土地はその売却先が○○市、○○公共職業安定所、建設省等国や地方公共団体だけで、その公共用地取得の必要性等からむしろ買主側より慫慂督促された結果の受動的な譲渡であり、B’表8の土地についてもその登記手続に当つたみぎ松島司法書士自身が当時亡宮原亀一の相続人は申立人一人であるとお誤信しておつた(このことは被審人松島豊の供述によつて明白である。)ものであり(同司法書士が斯く誤信したことについても前記渋谷司法書士の場合と同様必らずしもその誤信を非難し得ない情況の存在が窺われる。)、かつ右土地の売却代金は高齢で稼働能力のない申立人の生活費に充てるためであつたこと等の事情が認められるので、相手方中一部のものが主張するごとく、申立人が右酒井幸夫と共謀のうえ、詐欺的手段を講じて該不動産騙取の挙に出たものであるとは轍く断定することができない(因みに申立人及び申立外酒井幸夫は相手方宮原利一同原田友三同宮原夏夫同宮原良二等により私文書偽造同行使・私文書毀棄・詐欺等の嫌疑罪名で熊本地方検察庁に告訴されたが、同検察庁においていずれも犯罪の嫌疑なしとして不起訴処分になつている。)。

しかしいずれにせよ、以上の土地は相続開始当時遺産として存在したものであるから、既に所有権移転登記が経了されているB’表8記載の土地も含み本件分割の対象たる遺産として取扱うのが相当であると思料する(同旨昭和33・2・10福岡高裁決定・家裁月報一○巻二号六三頁、昭和35・8・31大阪家裁堺支部審判・家裁月報一四巻一二号一二八頁、昭和33・7・4東京家裁審判・家裁月報一〇巻八号三六頁参照)。

ただその分割に当つては、抗告審判示にあるごとく実情に即した処理をなすべきものである。

(ロ) 換地による分

別表E掲記の各農地は相続開始後において、そのうち1、2、3、6、は土地区画整理のため、また4、5は耕地整理のため、それぞれ公共買収されたが、その換地として別表E’掲記の各土地が取得され、また取得予定となつている。

しかして右換地(但し取得予定地を除く)はA表4、5、21、22中に換地増として組み入れ済みであるから、E表の各農地はもとより本件遺産分割の対象とならず、その代償財産たるA表の該換地増部分が右対象となるものというべきである。

なお配分予定の保留地はその配分後において相続人間でさらに分割の協議をすべきものであつて、本件遺産分割の対象とはならないものというべきである。

(三) 相続財産たる土地・家屋の評価額

(イ) 評価上の問題点

(1) 本件遺産に属する土地は、農地(田・畑等)中現存(換地を含む)するもの(A表)、農地中売却済みのもの(B表)、同事実上売却済みのもの(B’表)、農地以外の土地(宅地・山林・原野等)で現存するもの(C表)、農地以外の土地で事実上売却済みのもの(D表)等から成つており、これらのうち相続人全員の同意のもとに売却されたB表の1および2の土地については、これを既往にさかのぼつて帰属関係を明確にする必要がないから、代償財産である売却代金が分割の対象となるものというべきである。

したがつてその分割時における適正な価格はみぎ売却代金(供託中)に売却時から分割時迄の供託利子を加算した金額をもつて相当とするものというべきである。

(2) つぎに事実上売却済みのB’並びにD表掲記の各土地についても、B’表8の土地を除いては爾余の悉くが建設省、県、市等の国や地方公共団体に対し売られたものであつて、現にそれらに属する庁舎や道路の敷地として使用されておるものであり、またみぎB’表8の土地もすでに前記のような経緯により申立人が単独相続による単有の所有権移転登記をなし、ついでこれを申立外田中忠一に売却してその旨の登記を経ているのであるから、後記のごとく右各土地については善意の取得者保護と関係者間の紛議を避けるためにこれを申立人の単有とする分割の審判を相当とすべきものであるところ、これらのうち右B’表8を除く爾余の土地は公共用地取得補償の一般的基準に則り近傍類地の売買実績、固定資産税評価額、国税庁通達による相続税の評価倍率等を綜合的に参酌して決定されたものであり、またみぎB’表8の土地についても当時の価格としては概ね相当なものとみられるので、結局B’表及びD表各掲記の土地の分割時を基準とする適正な評価額はみぎ各表当該欄の売却代金額にその利用可能性の期待された、みぎ代金受領後分割時迄の間の法定利息(年五分)もしくは供託利子(供託中の分について)を附加した金額とみるのが妥当であると考える(このことは後記のように右各土地を申立人の単有として分割することと、その遡及効の点から十分合理性が担保されるものと考えられる。)

(3) つぎに宅地、山林、原野等の非農地については、取引価格等時価をもつてその評価額とすべきものであることについては異論がないところであるが、農地については、これをすべきその収益価格によるべきものであつて、取引価格その他の価格によることは違法として許されないものである(昭和39・11・30福罔高裁民事二部決定・同裁判所同年(ラ)第一七二号決定参照)か、それともその近隣地が宅地化されておるような農地についてはこれを宅地見込地としてその価格を評価することも許されるものである(昭和39・5・7東京高裁民事八部決定・家裁月報一六巻一一号一二九頁参照)かについては俄かにその是非を決し得ないものがあり当裁判所としては農地の公共取得における補償についても、その立地条件が参酌され、宅地可能性の有無が対価決定の要素とされておること等との権衡上からもまた具体的妥当性の見地からも後者の見解を相当にあらずやと思料するものであるが、被差戻審としては、抗告審における「農地については収益価格により評価すべく、みぎ以外の価格による評価は違法で許されない」旨の判示に覊束されるほかないので、本件に関する限り農地(A表)

については収益価格によつてその評価額とせざるを得ない。

しかして右にいわゆる収益価格の算定については抗告審は判示するところがないが、農業所得の計算について通常用いられている、当該農地の粗収入から生産費や公租公課等を差引いた純益を期待利廻率(民事法定率年五分)で逆算し資本還元した価格をもつてその収益価格であるとする考え方に従うのが相当であると思料するので、右見地に立つて算定された本件鑑定による評価額をもつて妥当なものと判断する。それによると、水田の反当収益価格は三八万九、三九二円、畑の同価格は二二万九、七四一円をもつて相当とする。

(ロ) 現実の評価額について

みぎのような基準のもとに算定した分割の対象となる各相続財産の評価額はつぎのとおりである。

(1) 農地中現存するもの

A表掲記のとおりであつて、その収益価格による評価額(なお、使用貸借地は自作地として評価し、小作地は自作地収益価格の七〇%として評価した。)は合計一七七万三、四六一円である。

(2) 農地中分割時迄に売却済みのもの

B表掲記のとおりであつて、その売却価格(売却代金は供託中)およびこれに対する分割時迄の供託利子の合算額は三〇万九、〇五〇円である。

(3) 農地中分割時迄に事実上売却済みのもの

B’表掲記のとおりであつて、その売却価格(売却代金中B’の1乃至5および8は現金、同6および7は供託金)およびこれに対する法定利息(年五分)または供託利子(供託年月日の翌月から起算し、受領月の前月まで、元本、ただし一、〇〇〇円未満は切捨に対し年二分四厘即ち一ヶ月千分の二の割合による金額)の合算額は七六万八、四二七円である。

(4) 農地以外の土地で現存するもの

C表掲記のとおりであつて、その時価(ただし、賃貸に係る宅地については、その時価の五〇%を借地権価格として評価減した。)による評価額(但しC表の12乃至14は被相続人と申立人外三名との共有で被相続人の右持分は1/3、また同表の15は同人と申立人外三名との共有で被相続人の同持分は1/4であるから、評価額もそれぞれ前三筆については1/3、後一筆については1/4をもつて相当とする。)は合計四一四万六、八〇八円である。

(5) 農地以外の土地で分割時迄に事実上売却済みのもの

D表掲記のとおりであるが、遺産に属する不動産の固定資産税等が本表1掲記の売却代金(供託中で供託利子も含む)中から差押徴収されているので分割の対象となる残存遺産の価格(ただし差押徴収額中に含まれている申立人固有不動産に対する固定資産税及び同人の国保々険料の合計額二万三、〇八〇円の遺産戻入れ分を含む。)は二七万五、四五四円である。

(6) 家屋

G表掲記のとおりで、その評価額は一〇万二、一〇〇円である。

以上によると、本件相続財産およびその一部代償財産(B表)の総計は七三七万五、三〇〇円となることが明らかである。

第三、相続財産からの収益(遺産より生じた果実)

相続開始後相続財産から生じた収益(果実)は相続開始時に存在した相続財産ということはできないが、遺産より産出されたものとして広義の遺産には属するものであるから、被相続人の遺産の包括的な清算を目的とする遺産分割の趣旨に徴し、これを相続財産に戻して分割の対象に含ましめるのが妥当であると考えられるところより、当裁判所は相続開始後における相続財産からの地代収入も本件分割の対象とすることにする。

しかして、右地代収入(果実)の総額は別紙第二掲記のごとく八四万〇、六六五円である。

なお右果実についても、本来はその収取時から分割時迄の間の利用可能性に徴しその間の法定利息もしくは供託利子を計算してこれを付加した額をもつてその額とするのが相当というべきであるが、その各果実の元本がH乃至K表掲記のごとく逐次発生的なもので複雑多岐に亘り、かかる計算を行なうことは事実上極めて繁雑であるのみならず、敢てこれを行なうときは反面右果実の取立て管理等に要した経費(但し公租公課は除く)も当然これを積算しなければならないところ、このような経費を正確に計算するということは事実上殆んど不可能に近く、なお本件においては果実の取立て並びにその利用可能者である申立人が相続財産について立替納税した金額についても利息を附しておらないのみならず、同人が同財産にかかる相続税並びに相続開始後昭和二六年度迄の固定資産税その他の公課を現実に支払つておる(立替払いしておる)のに拘らず、関係書類廃棄済みで、その額を確定することができないため、これを遺産の負担すべき債務として計上することができないこと、後記のごとく本件果実は申立人に分割すべきこと等の事情も斟酌するときは、みぎ果実について一々利息(もしくは供託利子)を計算付加しなくとも、本件遺産算定上、綜合的観点から十分その具体的妥当性を担保し得るものと考えられるので、かかる取扱いも当然許されるものと思料する。

よつて当裁判所は本件果実の額は、その現実の収取額によることとした。

その詳細はつぎのとおりである。

(一) ○○鉱山株式会社(昭和三九年一〇月以降は○○○○開発株式会社)からの賃料(地代)収入。

被相続人宮原亀一は昭和二二年一月一日○○鉱山株式会社との間にC表10並びに同表12、13、14(ただし右12、13、14の各土地は右亀一及び申立外宮原大介同沢村スズ子同沢村年男の四名の各共有であり、みぎ亀一の共有持分は各1/3である。)の土地を各株式会社の社宅用地として一〇ヶ年間賃貸する旨の契約を締結し、その後右契約は同会社と申立人との間において更新され、なお昭和三九年一〇月右会社の不動産関係業務部門が独立して○○○○関発株式会社となつたので、それ以後は同会社との間に右借地契約が継続しているが、昭和二四年から同四二年下半期迄の間における右借地料(地代)収入は別紙第二H表掲記のとおりである。

(二) 熊本県農政部畜産課(昭和三一年以降は○○競馬組合)からの賃料(地代)収入。

右被相続人宮原亀一は昭和一六年六月一日馬区組合連合会との間に、A表の8、20、22の土地を右組合関係の用地として一〇ヶ年間賃貸する旨の契約を締結し、その後右契約は同二三年右連合会の事務を承継した熊本県農政部畜産課に引継がれ、同二六年申立人との間に更新され、さらに同三一年以降は右熊本県から右事務を承継した○○競馬組合との間に右借地契約が引継がれ現在に至つているが、昭和二四年から同四二年までの間における右借地料(地代)収入は別紙第二I表掲記のとおりである。

(三) その他の借地人からの賃料(地代)収入。

同被相続人宮原亀一はその生前、A表の3、21およびB表の2を申立外吉本康一に、A表の6、7を同柿田ミネに同表の9を同田中一郎に、同表の10を同豊岡ハルに、C表の1を同中里一治(その後小沢二三を経て現在は貝塚サト)に、同表の2を同太田登に、同表の3を同杉本ヨウに、同表の4を同月代正夫同植木義市同広岡次郎同大友常同田中孝等五名に、同表の5、6を同大訳信造に、同表の8を滝沢喜八に、それぞれ賃貸し、またA表の1、211、12を相手方新井照子同宮原愛子の実母宮原トクに、同表の5を相手方宮原夏夫同永井ミツ同川上イソ申立外田代スエの四名に、同表の13を右田代に、G表の15(宮原亀一と申立外末川吾作同秋根太郎同津島一男の四名共有に係る山林・みぎ亀一の共有持分は1/4)を津島スエに、それぞれ使用貸していたが、右亀一の死後右賃貸借並びに使用貸借関係は右各申立外人及び相手方の一部と申立人宮原フミとの間に引継がれて現在に至つており、そのうち借地料(地代)収受状況は別紙第二J表掲記のとおりである。

第四、相続財産に対する公租公課の負担

相続財産に対する公租公課その他の管理費用は、一種の相続債務であり、本質的には遺産分割の対象となるに適しないものであるが、「相続財産に関する費用はその財産の中からこれを支弁する。」旨の民法第八八五条第一項の律意に徴すると、法律は公租公課等相続財産に関する費用等も遺産分割時迄に清算することを要請しているものとも考えられるので、当裁判所も本件遺産に関する公租公課その他の管理費用(尤も本件遺産について申立人が立替払いした相続税および相続開始時から昭和二六年度迄の公租公課並びに公租公課以外の管理費用については徴税関係書類の廃棄その他により、これを審らかにすることはできなかつた。)も遺産分割の対象として処理することにする。

しかるところ、相続開始後本件分割時迄の間において明認し得る本件相続財産についての公租公課(固定資産税等)は総額四三万一、〇四八円で、そのうち六万六、四四三円が申立人により自主納税され、爾余の三六万四、六〇五円が供託金(D表の1売却代金五六万四、九〇三円)の還付請求権差押徴収により、みぎ供託金(同利子も含む)中から徴収済みとなつている(実際には右供託金中から申立人固有不動産に対する固定資産税六、四五〇円および国保々険料一万六、六三〇円も一括徴収されておるので、徴収額は総額四五万四、一二八円となつている)。

その詳細は別紙第三L表記載のとおりである。

したがつてみぎ公租公課中三六万四、六〇五円は相続財産中から支払われ(すなわち相続財産がそれだけ減少し)て消滅し、申立人自主納税額の金六万六、四四三円だけが申立人の立替納税額として相続債務となるものというべきである。

みぎ以外にも申立人が負担した本件遺産の相続税および相続開始後昭和二六年度迄の公租公課が相続債務となるべき性質のものであるが、前記のように右金額を特定できないので遺産の算定上これを申立人が取立て受領した果実の利息(または供託利子)相当部分とを相殺的に清算処理することとして斟酌したことについては前述したとおりである。

第五、相続人別の相続分価格

本件遺産分割の対象となる財産の総額は、前記第二(三)において明らかとなつた本件相続財産及び代償財産の合計額七三七万五、三〇〇円に、右基本財産から生じた果実(収益)八四万〇、六六五円を加え、右合算額(八二一万五、九六五円)から申立人の自主納税額(遺産の公租公課中申立人の立替払いした金額)六万六、四四三円を差引いた金八一四万九、五二二円となる。

よつて、これに相続人各自の前記相続分(相続割合)を乗ずると、それぞれ

申立人宮原フミの相続分(96/144)価格は

五四三万四、〇二四円(円位未満は小額通貨の整理および支払金の端数計算に関する法律第一一条第一項により四捨五入する、以下同じ。)

相手方宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソ同宮原夏夫の各相続分(4/144)価格は

二二万六、三七六円

相手方大山喜作同山下タミの各相続分(6/144)価格は

三三万九、五六四円

相手方新井照子同宮原愛子同山村春雄同山村晃の各相続分(3/144)価格は

一六万九、七八二円

となり、みぎ四捨五入の結果、遺産価格に対し、一四円の超過となるのでこれを相続分価格の最も多額な申立人宮原フミの相続分価格五四三万三、〇二四円から控除することとし同フミの相続分価格を五四三万三、〇一〇円となし、現実の遺産価格に適合させることとする。

第六、分割に当り考慮した事項

(一) G表の家屋(価格一〇万二、一〇〇円)は、その一部を借家人に賃貸しているものの、永年申立人がこれに居住してきたものであつて、到底複数相続人の現物分割には適しないものであるから、申立人の単有に帰せしむるのが相当である。

(二) 既に事実上売却済みのB’表及びD表記載の各土地(価格合計金一〇四万三、八八一円)については、前記のような売買の経緯や売却先の特殊性等により抗告審判示のごとく、なるべく善意の買主との間に紛議を生じないようにし、かつ同買主の利益をも参酌するのが妥当であるから、一応申立人の単有とし、爾後における移転登記を含む権利変動手続の円滑を期するよう配慮すべきである。

(三) 相続人全員の同意のもとに売却されたB表の土地二筆については、その代償財産たる売却代金(ただし供託後の供託利子加算)を相続分に応じて現金分割するのが本来の立前であるが、既述のごとく相続人の約半数の者が右売却土地についてその後移転登記を拒み紛争の余燼が猶燻ぶつているので、右代償価格(金三〇万九、〇五〇円)も申立人の単有として分割し爾後の移転登記手続等の円滑をはかるのが妥当である。

(四) 相続財産から生じた果実(H、I、J、K各表)は全部貸料収入(総額八四万〇、六六五円)で、申立人がすべてその取立て保管に任じ事実上同人の私金に混じてしまつておるものであるから、これと同人が立替え納税している遺産の公租公課の額金六万六、四四三円(前記のように果実について利息を考慮しないので本立替納税額についても同様利息を附さない。)とをその対当額で相殺しその残額(金七七万四、二二二円)を申立人の単有として分割するのが相当である。

以上(一)乃至(四)の価格の合計額は金二二二万九、二五三円である。

(五) 爾余の相続財産はA表の農地およびC表の宅地、山林、原野で悉く現存する土地であるところ、これら土地の殆んどは被相続人が世襲したものではなく、同人と申立人の二人がアメリカで刻苦して稼ぎ蓄めた金で買い集めたもの(C表の12乃至14は別)であり、遺愛価値も高いものであるから、他の相続人が現に耕作し、もしくは管理しているもののほか、申立人およびその家族(養子等)において耕作もしくは管理する能力を有する(申立外宮原利子審問の結果においては今後かかる能力を保有できるものと考えられる。)限り残余の相続分価格(申立人の相続分価格五四三万三、〇一〇円から(一)乃至(四)の価格合計額二二二万九、二五三円を差引いた価格三二〇万三、七五七円)の範囲内で可及的にその現物取得を考慮すべものと思料するが、反面他の相続人の大半(相手方山村春雄同山村晃の両名を除く)も換価分割よりは現物分割を熱望しているので、それらの相続人の希望とその相続分を超過する金額に対する同人等の金銭債務による負担能力の限度等を綜合的に斟酌勘案することが必要である。

なお終局的解決を期するには、一個の不動産ごとに一人の取得者を定めるのが理想であるが、本件の場合各相続人の個々の相続分価格と符合し、もしくはこれに近似する価格を有する不動産は殆んど認められないのみならず、反面相続人中相手方宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソ同宮原夏夫等の間、相手方新井照子同宮原愛子の間、相手方大山喜作同山下タミの間には、それぞれ兄弟姉妹として極めて緊密な親近関係が認められ、一個もしくは数個の不動産について同人等を共有関係に入らせたとしても、当該人等の間において後日紛争を醸す懸念はないので、相手方中現物分割を希望しているものについては、右のような特別の関係があるものごとに、これをまとめて一グループとなし、その相続分を合算したうえ、これに近似する現物を共同取得させるという工夫も次善の方法として己むを得ないものと考えられる。

なお同人等が現物取得を希望するのは、現に耕作中の農地に関する分を除いては、必らずしも永久に現物として持ち続けようとするためではなく(現に相手方宮原利一同原田友三は遺産所在地から遠隔の地に居住するので、現物の直接管理するということは不可能のことに属する)、いま直ちに換価分割により価値の変動が激しい現金として取得するよりは、当分現物で保持し適当な時期に有利な価格で売却処分する方が殖財上得策であるとするところにあるものであるから、みぎ共同取得の方法も右同人等の目的に反するものではないと考えられる。

右のような観点に立つて、A、C各表の不動産を分割することにすると

(イ) A表1、2、11、12の四筆(価格合計金九万一、七二七円)は、現に相手方新井照子同宮原愛子姉妹の母宮原トクが耕作しておるので、右農地は今後も引続き同女にその耕作を得させるため右相手方両名の共有(共有持分各1/2)とし、ついで右両名の相続分価格合算額(三三万九、五六四円)からみぎ取得農地の価格九万一、七二七円を差引くと、同人等の残余相続分価格は金二四万七、八三七円となるので、概ねこれに見合うC表5の不動産(価格二六万円)を右姉妹の共同取得(共有持分各1/2)とし、超過額一万二、一六三円は同人等の他の相続人に対する債務負担(連帯)とするのが相当である。

(ロ) 右同様A表の4(価格五万〇、五四三円)並びに同表の5(価格一七万八、四三二円)は相手方宮原夏夫が現に耕作しているので、引続き同人に耕作を得させるため同人の単有とし、かつみぎ取得農地の価格合算額(二二万八、九七五円)と同人の相続分価格(二二万六、三七六円)との差額二、五九九円は同人の他の相続人に対する債務負担とするのが相当である。

尤も右A表の5農地は同人のほか同人の実姉である相手方永井ミツ(六六歳)同川上イソ(六四歳)並びに申立外田代スエの三名も各その一部を耕作中であるが、七畝二三歩にすぎない同農地をみぎ相続人二名も入れて三等分するということは農地の零細化防止の見地から相当でないし、また右永井ミツ同川上イソの年齢からみても同女等が今後耕作を継続できる期間短年月に止まるものとみられるので、親密の間柄にもある実弟夏夫の所有としても右姉弟間に紛議を生ずることはないものと思料される(なお姉妹間の協議で相手方永井ミツ同川上イソが前記耕作を継続できることは勿論である)。

(ハ) 相手方宮原利一はC表の1(価格九六万八、三〇〇円)の不動産の単有または実弟等との共同取得を希望しており、相手方原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソ等は本件分割についてはすべて右利一の指導に従い一体となつて行動している事実が認められるので、右五名の相続分価格(二二万六、三七六円)の合算額(一一三万一、八八〇円)に比較的近似する価格を有するみぎC表の1に同表の3(価格一三万二、〇〇〇円)を加えた二個の不動産(価格合計一一〇万〇、三〇〇円)を同人等の共同取得(共有持分各1/5)とし、右相続分合算額と右取得不動産の価格との差額三万一、五八〇円は他の相続人に対する債権として共同取得(共有持分各1/5)させるようにするのが相当である。

(ニ) 相手方大山喜作同山下タミ兄妹の相続分価格は各三三万九、五六四円でその合算額は六七万九、一二八円であるところ、右タミは農業を営みA表2の農地の現物取得を希望しているが、該農地は前記のごとく現に宮原トクが耕作中であつて同人の子新井照子同宮原愛子の共同取得として分割するのが相当であるから、みぎ喜作タミ兄妹の相続分価格の合算額に近く、かつみぎタミの希望にも副うようA表13の農地(価格八万〇、四〇九円)とC表8の宅地(価格五八万七、七九〇円)を共同取得(共有持分各1/2)させ、両名の相続分価格合算額とみぎ共同取得不動産価格と差額一万〇、九二九円は他の相続人に対する債権として共同取得(共有持分各1/2)させるのが相当であると考える。

(ホ) そうすると、A表及びC表の各不動産中残余のもの、すなわちA表の3、6乃至10、14乃至22の一五筆(価格合計一三七万二、三五〇円)並びにC表の2、4、6、7、9乃至15(ただし12乃至14の三筆はその1/3、15、はその1/4)の一一筆(価格合計二一九万八、七一八円)は申立人の取得とし、かつこれら不動産と既に同人に分割することとしたB、B’、D、G各表の不動産および果実(但し一部を除く)との総額(五八〇万〇、三二一円)が同人の前記相続分価格五四三万三、〇一〇円を超過する額三六万七、三一一円は他の相続人に対する債務負担とすべきものである。

(ヘ) また相手方山村春雄同山村晃の両名は現金分割を希望しているので同人等はそれぞれの相続分価格である金一六万九、七八二円(計金三三万九、五六四円)につき、他の相続人に対し、金銭債権を取得させることとすべきである。

第七、右分割に因り生じた相続人間の債権債務の充当清算について

(一) 申立人が負担する金銭債務三六万七、三一一円は

(イ) 相手方山村春雄に対し、金一六万九、七八二円

(ロ) 同山村晃に対し、金一六万九、七八二円

(ハ) 同宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソに対し、金二万七、七四七円(債権者一人当り金五、五四九円強)宛

(二) 相手方新井照子同宮原愛子が連帯して負担する金銭債務一万二、一六三円は

(イ) 相手方宮原利一同原田友三同宮原良二同永井ミツ同川上イソに対し、金三、八三三円(債権者一人当り金七六六円強)

(ロ) 同大山喜作同山下タミに対し、金八、三三〇円(債権者一人当り金四、一六五円

)宛

(三) 相手方宮原夏夫が負担する金銭債務二、五九九円は、相手方大山喜作同山下タミに対し、その全額を、それぞれ支払い、清算するものとする。

第八、結論

よつて本件遺産を主文掲記のごとく、申立人並びに相手方等に分割することとし、本件手続費用中鑑定に要した費用(それが金四万五、〇〇〇円であることは、本件記録上明白である。)の負担について非訟事件手続法第二七条を適用のうえ、主文のとおり審判する。

(家事審判官 石川晴雄)

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